「エニグマ変奏曲を聴く」 その14 オイゲン・ヨッフム指揮 ロンドン交響楽団
イギリスのオーケストラに戻ります。
このシリーズ、好きな演奏から紹介しているんだけど、大事な一枚を忘れていた。これは大変な名演だと思いますよ。最初「ニムロッド」の遅さに驚いたけど何度も聞いているうちにしっくりくるように。異常な遅さのバーンスタイン盤(これは取り上げないつもり)を聴いたあとならこれくらいならありかな、と思い直した。
ロンドン響のしっとりした渋い響きに癒やされる。やっぱりエルガーは英国のオケに限るな、とあらためて思わせる。ブルックナーなどドイツ物しかやらないイメージのヨッフムにしては珍しいレパートリー。ただエルガーはブラームスなどのドイツ音楽に深い影響を受けていて、近しい愛着はあるんじゃないかな。1975年の録音。
テーマは重心の低い、どっしりした提示。第2変奏もユーモラスというよりは低弦が繰り返すテーマの一部を強調させ、変奏曲としての一貫性を保つ。ここらへん、ドイツ的といえるのかも。真面目な人柄をしのばせる。
第7曲「Troyte」が楽しい。主題の音型に相の手が入る箇所、普通はホルンが彷徨してかき消されるフルートはじめ木管がすっと浮き上がって聞こえて美しいし、変奏が二巡目に入る練習番号26の直前、1番トランペットだけに書いてあるmolto crescの半音階上昇を強調するのもかっこいい。大好きなこの変奏、シノポリ盤と並んでお気に入りです。
第8変奏をリタルダンドさせて最弱音で終えると、そのまま夢のようなニムロッドに入る。遅い。ブルックナーのアダージョを思わせるような神々しさ。曲全体のバランスを考えるといかがなものか、とも思うがこの曲だけを聴くなら随一の演奏だと思う。pppから最後のffzに至るダイナミックレンジの広さも出色。秋の夕暮れ時なんかにこれが流れてくるとわけもなく感極まって涙がこぼれてしまいます。第12、13変奏あたりも、ほの暗く美しい。
そしてゆっくりした歩みから始まるフィナーレ。楽譜に書かれたことを全部まじめにやっているのはこの演奏だけかもしれない。一回目のlargamenteにだけ指定してあるトロンボーンとティンパニのクレッシェンド、テンポプリモの前のstringendo。コーダに突っ込むところの激しい小太鼓など大いに盛り上げてくれる。少し前に録音されたモントゥー盤同様、オルガンは使っていない様子だけど、こういう演奏を聴くとオケだけで十分かもと思う。
カップリングのチェロコン、フルニエの端正なたたずまいが印象的。誰かさんのような阿鼻叫喚のエルガーは、ここにはいない。