アンナプルナ農場の気まま日記

信州伊那谷で有機農業に取り組んで20年。農場の「いま」をお届けします。

「エニグマ変奏曲を聴く」 ~⑦トスカニーニ指揮BBC交響楽団


(写真は私の持っているのとは違うけど、ネットから拝借しました)

 前回登場のボールト卿が初代の首席指揮者を務めたBBC交響楽団トスカニーニを招聘して実現した1935年の演奏会録音。生年が作曲家と近い(10歳ほど年下)トスカニーニが、国こそ違え同時代を生き、前年に亡くなったばかりのエルガーへのオマージュ、追悼の念を込めた演奏を展開する。

 冒頭のテーマは作曲家の自演同様、ポルタメントを多用して情感たっぷりに奏でられる。マエストロ自身も歌っているようだ(笑)。有名な「ニムロッド」はじめゆっくりした変奏も同様で、トスカニーニの美点である伸びやかなカンタービレを楽しめる。

 他方、速い変奏では一転して厳しい筋肉質の響きに。これ、ユーモラスに演じようとしたのかオケが必死に食らいついた結果としてそうなったのか。第4変奏W.M.Bや第11変奏G.R.Sあたりでは関西弁でいう「いらち」という言葉がぴったりくるほどおかしみがこみ上げる。柔と剛が入れ替わりつつ、気がつくと怒濤のフィナーレまで一気にたどり着く。彼が晩年に手兵のNBC交響楽団と残した録音はよりストイックでスコアに忠実な解釈だが、70歳を前に脂ののったこの時期の方がカンタービレにあふれていて好き。録音さえよければこの曲随一の演奏に挙げたいくらいだ。

 演奏後は大喝采が聞かれる。大戦前のライブ録音でこれだけ盛大な拍手は聞いたことがない。〝われらがエルガー〟を華麗にさばいてくれたイタリアの名匠に ロンドンっ子も大喜びだった様子が伝わってくる。