アンナプルナ農場の気まま日記

信州伊那谷で有機農業に取り組んで20年。農場の「いま」をお届けします。

「エニグマ変奏曲を聴く」 その9 ロルフ・クライネルト指揮ベルリン放送交響楽団

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 これまで聞いてきたのはすべて英国のオケ。いったんドイツのオケに耳を転じてみよう。
 
 聞いたことのない眠そうな名前の指揮者なのに、演奏はとても刺激的♡ 録音年は分からないが1960-70年代でしょう。
 編成が比較的小さいのだろうか、ビブラートを抑え、乾いた硬質で透明感ある響きでテーマが提示される。各変奏では独自の解釈が随所に聞かれてはっとさせられる。
たとえば、第2変奏「H.D.S-P」はバイオリンの掛け合いが楽しい曲だが、普通は1stと2ndを同等に扱うところ、所々で2ndの強奏を挟み込み、曲にアクセントを加える。第4変奏「W.M.B」や第7曲「Troyte」では固いばちを使ったティンパニの打ち込みが強烈。第8曲「W.N」では女性の笑い声をオーボエがトリルで音階を上がって表現するところをスラーで演奏し、優雅な感じを引き出す。第10曲「Dorabella」ではビオラが主題の変奏をソロで奏でるはずが、なんとテュッティで演奏していてびっくり。首席びよりすとに演奏を拒否されたのかとも思ったが(笑)、音程跳躍があってこっちより難しい第6曲「Ysobel」では普通にソロをやっていた。驚いたけど、よくよく聞きこんでみると落ち着いて自然な音楽の流れが生まれているのに気付かされる。第13曲「Romanza」は静かな海と楽しい航海ーのはずなんだけど、突如荒れ狂う海が登場してまた静かになったり、ちょっと怖い。
 そして終曲。マーチから始まって主題の断片の変奏が全オケで高らかに演奏される箇所、トロンボーンだけに一回目だけ指定してあるクレッシェンドを正確に行っているのが珍しい―自作自演盤でも書いたことをやってない(笑)―。またStringendoを忠実に行ったあとに短いゲネラルパウゼを設けて再現部(というのだろうか)に移るのも効果的で、フルトベングラーの第九、最終盤のあの「vor Gott!」を想起させる。オルガンは加えず、純粋なオケだけの演奏。
 
 てな具合で、ドイツ人らしい引き締まった硬派のエルガーといったところで、聞き比べの醍醐味を味わわせてくれる隠れた名盤ではないだろうか。この指揮者、調べてみると東側で活躍し、このオケの常任をあのアーベントロートから引き継いでレーグナーにつないだ人物のようだ。西側ではあまり知られていないが、ほかの演奏も聴いてみたくなった。ちなみに併録はなんとルトスワスキのオケコン!。エルガーとなんの脈絡があるのだろう。やっぱり、ただ者ではない。